黒川はいつも生徒が間違えるとそう言う。

たとえ全く見当違いであっても。

「その蓋の種類がいくら増えてもオーダーメードとは言わないな。でも例えば、君が選んだそのパネルに君がここに名前を入れてくださいといったらそれがオーダーメードだ。自分から注文するんだ。他には?赤のリボンの君。」

「ゲームのキャラとか?」

後ろの女子の誰かが答えた。黒川は分かっていないようだし、その子もよくわかっていないようで軽く流された。

「そうだな。それでは、オーダーメードでも満足できない場合はどうする?」

私の頭にはクウェッションマークが散りばめられた。黒川はすぐに答えをしりたがる私たちだと知っているのにじらしにじらした。そして授業終了のチャイムが鳴ってしまった。しかし答えを聞くまで誰も動こうとしない。

「創造。」

そう言って黒川は黒板に創造という文字を書き、その場を立ち去った。

なんともかっこいい演出に拍手をする生徒もいた。話を最初から聞いていたにも関わらず、
私の脳は溶け出していたので、最後に黒川の言ったことがよく分からなかった。

考え込んでも仕方がないと開き直り、窓際の茜の席に向かった。

同じクラスの美加子と夢中になって校庭の様子を見ている。
二人とも私が横にいるのに全く気づいていないので茜の肩を叩くと、

「健治君まだサッカーやってる。うまい、うまい。」

と言って茜は届かない黄色い声援を送っている。

私は父のことを思い出した。

父にはこういう哲学が自然と分かっているのだろう。

「これはあくまでも先生の推論だが、いずれはすべてのものがオーダーメードになるだろう。言っていることがわかるかい、君。」
黒川は私の隣の男子を指した。

「オーダーメードってスーツやカーテンのことですか?」

「そうだ。これは和製英語でむこうではmade-to-order、服なんかはmade-to-measureなんて言う。ものが溢れる時代、みんなの欲求はただ店頭に並ぶ商品を買うだけでは満たされない。たとえば、女性の化粧品。店には山ほどいろんなタイプの化粧水があるのに、自分の肌にぴったり合うように薬や水の分量を調整して作ってもらう。今あるものでは満足できなくなるから。他に何が思いつくかね、そこのベージュの君。」
今度はベージュのニットを着た男子が指された。

「よくわかんないです。」

「自分の身近なものでいい。」

指された男子の仲間が代わりに答えた。

「先生、俺のケータイのこの蓋の部分、取り外しができて気分で柄を変えたり出来ます。これってオーダーメードでしょ。全部で百種類以上売っているしこれからも増えるって店員さんが言ってました。」

男の子はみんなにわかるようにケータイのパネルを外してみせた。

「おしいな。」

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